信じざるは、自分の目なり。耳なり。舌なりけり。

NOVEL
「こけしちゃーーーーん」



昼休憩。



教室のドアから、あの時の、背の高いお姉さんと


数人のお姉さんたちが、私に向かって叫んでいる。

いつも、ニコニコしている。

そんでもって、叫んでいる。

私よりずっとデカいから

私は、この背の高いお姉さんを

“お笑い大魔神”


と呼ぶことにした。




とりあえず、睨んどいた。


「こけしちゃん、まだ食べてないの?嫌いなものあるのー?」

「ほんとうに、何度見ても、こけしだね!パッツン!」



みんなして、ニヤニヤしてやんの。



お笑い大魔神たちは、なんとも楽しそうに笑っている。


否定はしない。




私は、パッツンだ。

パンツじゃない。

パッツン!!!!


お母さんが切ってるからね。

いいの。

気にいってるから。



近所のおばあちゃんが


「パッツンいいね。おばあちゃんも、同じだったよ。」


って言ってたから。いいの。



―――――――――

私と、近所のおばあちゃんは


いつも同じ会話。

「お母さんが、切ったの!」


多分、百万回言った。


近所のおばあちゃん、聞こえてんのか、いないのか


「う~ん?そう。そう。」


にこにこしながら、笑う。

私は、フフフん♪って気持ちになる。

――――――――




私は食べることが、とっても遅かった。

入れ歯のおばあちゃんと、ほとんど変わらなかった。


噛む回数が多かった。

一口30回、そんなレベルでは、なかった。

牛みたいに、常に口の中で、モグモグ噛みしめていた。

そのせいで昼休憩いっぱいを、一人で給食を食べることが多かった。

昼休憩前は、教室掃除のために

机を、教室の後ろに押して、まとめておかなくては、いけない。

…それは、時間内に食べれない

私のような子には、

監獄になる。




一歩も出れない。

もはや、立てない。

背中を、曲げることもできない。



やたら姿勢のいいオカッパが、ここにいた。

こういう時ほど、最前列が羨ましくなる。


孤島で過ごすも、良し。

監獄の最前列は、脱獄可能だ。

そんな獄中生活をしている、私。


助けることもなく、笑っている

お笑い大魔神。と、愉快な仲間たち。

見物料でも、とればよかった。

きっと、私は毎日お菓子を買えた。

自分の取り分を、しっかり確保したうえで

堂々と友達に分けれるほど、買えただろう。

そのくらい毎日のように、お笑い大魔神は来た。

私は、とっても忙しかった。


食べなきゃでしょ?
睨まなきゃでしょ?

「食べてんの!うるさい!」

叫ばなきゃでしょ?

友達が、ベランダから
「まぁーだぁあー?」
「もーちょっとぉお!ブランコ乗っててぇえ!」

叫ぶでしょ?

「こけしちゃん、まだまだあるんじゃない?」

「お笑い大魔神は、うるさい!!!!!」

叫ぶの。ずっと。

「お笑い大魔神だってぇ~。」
「なにそれ~こけしちゃ~ん」

上級生の中で、私のあだ名は、定着していった。

“こけしちゃん”

“こけし”がどういうものなのか、未だにわからなかった。

でも、こんなやり取りするから忙しかったし


「こけしってなに?」

お笑い大魔神に聞くなんて

なんか負けを認めるようで


絶対に聞かなかった。


それに私は、すぐに嫌なことを忘れた。

悩まない。

単細胞チックな脳みそを、持っていた。


今日こそ、

お母さんに聞いてみよう!

先生に聞いてみよう!

何度思ったかも忘れる!聞くこと事態も当然、忘れた。

忘れたことも、忘れる始末だ。


でも、この脳みそは、いきなりやる気になるときがある。

ポーンと記憶を呼び起こす。

友達と学校から帰りながら


どの雑草や実は食べれるのか

おいしいのか

手当たり次第に口に放り込んでは、

ベッ!まずい!

ゲッ!苦い!うえ!虫たべた!



地球を味わっていたときに、

私の脳みそのやる気スイッチは

ONになった。




「ねぇ、こけしって知ってる?」

小さい黄色い花をつけた、クローバーの雑草を

しゃぶりながら、私が友達に聞いた。

「え?こけし?タニシじゃなくて?

爪楊枝で食べるやつ?

あんま、おいしくないよね。

あれ、大人の食べ物だよ。」

うげ、にっがい!
タンポポの葉は、食べれないね。

ペッペ!掃き出しながら

友達は、眉間にしわを寄せて言った。





あれ?

もしかしたら

こけしは、食べ物かもしれない。

きっと大人の食べ物なんだ。

だから、私は知らないんだ!

たわしの親戚じゃなくて

タニシの親戚なのか。

きっと、こけしは、食べるのがとっても遅いんだ。私と、同じじゃん。

私たち、二人とも、ピカピカの一年生。

知っているものといえば

口の中にいれてみて

おいしいものと、まずいもの。


白い実は、最高だということ。

(網のフェンスに鈴なりに実っていて、

中は水っぽくて、甘くておいしいので食べつくした。)

赤い実は、舌がビリビリするということ。

自分で見たもの、食べたものは、ちゃんと覚えれる。




私は、子供だから“こけし”は、食べたことないけど

大人になったら食べるんだ。


だって、

私は、タニシの親戚に似てるから。味合わなきゃね。

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